フード・インクはアメリカの食料生産市場における二つの行き過ぎを克明に描いたドキュメンタリー映画作品になっています。この作品以前から、食が危ないと散々言われ続けてきましたが、実際にこの数年の間や、はたまた数十年と年月が立つ間にもその危機は一切改善されること無く、更なる激化を極めています。これらに警鐘を鳴らすべく作られたドキュメンタリー映画が、このフードインクとありあまるごちそうという二つの作品なのでした。このフードインクに関しては監督が六年もの歳月をかけて作り上げたフードドキュメンタリーで、食料生産をテーマに置き、どのような過程を経て食料が作られ、消費者の元へと届いているのかについて描いている作品です。
アメリカの食糧生産問題
アメリカの食糧生産には二つの問題があります。それは二つの「行き過ぎ」によるものです。そのひとつは生産量の過剰、アメリカの食糧生産は、たとえば牛肉をとると、いろいろな牧場で育てられた牛が広大な敷地を持つ生産工場に集められ、そこで超高速のラインに乗って処理されていきます。それはまさしく食糧工場、効率だけを求め、すごいスピードで肉が生産されていきます。
もうひとつの行き過ぎは飼料の値段に関してです。これらの大量生産の仕組みと並行して、値段。大量生産のシステムに加えて、コーン等は政府の補助金によってありえないほど安い値段で売られています。
そして、この牛肉の大量生産とコーンの値段破壊によって生まれるのが食中毒なのです。本来、草を食べるはずの牛がコーンを食べることで牛の内臓には負担がかかって、抗生物質等を飲ませることになり、その結果O-157等の危機な大腸菌を持つようになります。そして超高速ラインで完全に消毒されないまま消費者の手に渡り、それが原因で食中毒を起こしているといったものです。さらに、それに対する政府の無策ぶりもあってアメリカの食の安全は根本から揺るがされることとなってしまっていたのです。
この作品を見ると、アメリカで起こっている事は異常としか言いようがありません。そこで一体どのようにすればいいのか、この映画が最後に投げかけるのはその為の解決策なのです。今起こっていることを分かりすく解説し、最後にそれに対する解決策を提案するわけです。しかし、厳密に言うと、これはアメリカだけの問題ではありません。日本においても同じような食料生産についての問題はあり、もっとも問題なのはその問題から目を背けて見当違いな批判ばかりを繰り返し改善案を上げないことにあるでしょう。ですので、この作品にかんしてはあくまでもそれらを考えどうするべきなのかについて、みんなで親身になって取り組もうという姿勢を伝えることに重きをおいています。ただ、これまでも食に関するドキュメンタリーを観てきた人はあまり新しさを感じられないかもしれません。『いのちの食べ方』や『キングコーン』といったような作品ですでに語られたことの繰り返しでもあるからです。しかし、その危機について考え、なにかをしなければならないと考えているならば、違う語られ方を知ることで学べることがあるはずだと思います
果たして21世紀の「食」はどこに向かうのか、そして私たちは何をすればいいのか。それを考えるためにはまず映画で「社会見学」をしてみるといいのかもしれません。
大企業が占有する、工業化されたアメリカの食
「インク」とは「企業組織の」「法人の」という意味で、「フード・インク」は、さしずめ「食品株式企業」というところでしょうか。『ファーストフードが世界を食いつくす』の著者エリック・シュローサーがプロデュースしたこの映画は、完成までに何と6年もの歳月がかかっているのだそうです。
映画は「この50年間の変化は過去1万年なんかよりも大きい」「でもスーパーマーケットには昔のままの農家のイメージが並ぶ」という指摘から始まります。アメリカの食は、野菜も肉も、自然あふれる素朴な農地ではなく、大企業の「工場」で生み出される「工業食品(industrial food)」なのだという事が、やがて衝撃的な映像と同じく示されていきます。
たとえばブロイラー。従来の半分の期間で2倍の大きさに育てられ、骨や内臓が成長についていけないため、数歩あるいただけで脚が折れてしまいます。
企業側は「科学の恩恵」「利益が大きくなる」と言いますが、一方で、養鶏場は契約先の大企業が指定する新しい機械を導入しなければならず、その為に抱えるローンの平均額は年収の30倍近くもあります。払い終える前に新たな設備投資が必須になるだろうと容易に想像できます。「科学の恩恵」や「利益」を得ているのは大企業だけで、契約農家は搾取されるばかりのようです。
低所得者層の問題も言及されます。「野菜は高いんだよなあ」とぼやくお父さん。結局いつもハンバーガーになる一家。お父さんは糖尿病を抱えているにもかかわらず……。
消費者の「何を選び、買うのか」が、大企業でも動かす力強いメッセージになるのだと、映画「フード・インク」は教えてくれます。食べ物が作られる過程にもっと関心をもつこと。何に気をつけるべきか知ること。信頼できるものを選ぶこと。それで社会は変わっていく。見たことのない映像に怖がっているなんかよりも、何も知らずにいることのほうが、ずっと怖いことなのかもしれません。
「フード・インク」が描くのはアメリカの食ですから、そのまま全部日本に当てはまるわけではないと思います。安全性への配慮や技術レベル等、もっと高いはず。そうであってほしい。しかし、安ければいい、製造過程はどうでもいいという消費スタイルが進めば、アメリカと同じ状況になるでしょう。それを防ぐためにも、一人でも殆どの方にこの映画を観ていただきたいと思いました。